125号 感話:他人に苦痛を与えることを望んではならない [ 平成27年5月4日 ]
五濁悪世
お取越し報恩講はよい天気に恵まれて大勢の方々にお参りをいただきありがとうございました。
真敷祐孝先生には「五濁(ごじよく)」についてご法話いただきました。仏説阿弥陀経に出てくる「劫濁(こうじよく)・見濁・煩悩濁・衆生(しゆじよう)濁(じよく)・命濁(みようじよく)」を丁寧にお話しいただきました。2500年前に説かれたお経が今も私たちの生きざまを恥ずかしいくらいにずばりと言い当てています。一番最後の「命濁」は、「命をいとおしむ、我が身に受けている命に深い喜びを見いだす、そういうものがなくなり、自他の命を粗末に扱い、軽んずるようになる。早死にするようなことばかりしながら、長生きしたいと思っている。不幸になるようなことばかりしながら、幸福になりたいと思っている。願っていることと、実際にしていることが食い違っている。」とまさに現代人の私たちの姿そのものです。
人間の正体は、仏の智慧に照らされて初めて見えてくると先人が教えてくれています。仏法を聞き続けなければならない所以(ゆえん)でもあります。そんな折、ご門徒さんの50回忌に寄せていただきました。お茶をいただきながらふと見るとお部屋に掛けられていた色紙には、82歳で亡くなられたお父さんの歌:「日日を 只ありがたし 老いの春」がきれいな毛筆で書かれていました。人生の味わいを感じました。
ご案内:元上組親鸞聖人750回大遠忌「ほうおんのつどい」
日時:6月13日(土) 13:30〜17:00 申込み:託念寺
会場:長岡リリックホールシアター 入場チケット:千円
プログラム:<影絵法話 ともしえ>
<法話:釈徹宗氏>
<絵ものがたり正信偈
−ひかりになった、王子さま−>
元上組若手僧侶の企画です。新たな始まりにご期待ください
感話 他人に苦痛を与えることを望んではならない
5月に花祭り行事を予定しています。本来は4月8日ですが、長岡市仏教会は5月5日のこどもの日に設定しています。花祭りがお釈迦さまのお誕生をお祝いする行事ですから、こどもの成長をお祝いするこどもの日とドッキングするのはなるほどと思います。この機会にお釈迦さまのことを学びましょう。数あるお経の中で特に「ブッダのことば」として伝えられている経典が「スッタニパータ」です。まことの保育5月号「今月のことば」に紹介されています。
一切の生きとし生けるものは、幸福であれ、安穏であれ、安楽であれ。
一切の生きとし生けるものは、幸せであれ。
何ぴとも他人を欺(あざむ)いてはならない。
たといどこにあっても他人を軽んじてはならない。
互いに他人に苦痛を与えることを望んではならない。
この慈しみの心づかいを、しっかりとたもて。
(スッタニパータ『慈しみ』)
このことばが、「ブッダのことば」を翻訳した中村元(はじめ)博士の墓碑に刻まれているのだそうです。
中村博士は世界的な哲学者・仏教学者で文化勲章も授与されています。ちょっと脇道にそれますが、お釈迦さまが誕生されたときに「天上天下唯我独尊」と発せられたことは有名です。このことばを普通に解釈すれば「この世でただ私ひとりが尊い」となります。この世で尊いのは自分だけというのは、いくらお釈迦さまでもおごりではないのかと思いますが、中村博士は、岩波ジュニア新書「ブッダ物語」の中で「これは人間はだれでも独自の尊さをもつことを示そうとしているのではないだろうか」と述べています。これを読んだとき、「すごい!」と思いました。一つの文をこれほど鮮やかに文意を逆転してしまうとは。「みんなちがって みんないい」が、唯我独尊の真意だったのです。中村博士は、お釈迦さまのことをよく知っておられたからこういう読み解きができたのでしょう。
千葉県船橋市の18歳女性が殺害され地中に埋められて発見された事件が報じられています。20歳前後の男女4人が逮捕されました。今年1月に川崎市の中学1年生殺害事件が起きたばかりです。
一切の生きとし生けるものは、幸せであれ。互いに他人に苦痛を与えてはいけない。それを望むことすらしてはいけない。
慈しみとは、他者を思いやることです。
五濁悪世と気づかされたら、そうした有り様(よう)にならないように自らが積極的に努力しなければなりません。今の時代こそお釈迦さまの「慈しみの心づかい」が新たな道しるべになるのです。しっかりと保っていきたい。合掌
元上組「れんけん」へのお誘いです
学びの仲間に入りませんか。寺に戻って10年です。
私も多くのお仲間ができました。仕合わせです。
大乗4月号 「いのちのびのびと」より
今年4月より本願寺出版社刊 月刊大乗にエッセイを連載させていただくことになりました。本願寺保育連盟教育原理委員という立場です。「まことの保育」という視点から執筆します。